大阪地方裁判所 平成6年(ワ)6257号 判決 1997年11月27日
大阪市東住吉区湯里五丁目一三番二七号
本訴原告・反訴被告(以下「原告(東住吉区)」という。)
クラウンタクシー株式会社
右代表者代表取締役
石田信行
大阪市旭区新森六丁目八番二号
本訴原告クラウンタクシー株式会社訴訟承継人・反訴被告
(以下「原告(旭区)」という。)
クラウンタクシー株式会社
右代表者代表取締役
石田信行
右両名訴訟代理人弁護士
村田哲夫
野村公平
清水正憲
大阪市東住吉区住道矢田五丁目一番四七号
(送達場所・大阪府枚方市楠葉美咲三丁目九番五号)
本訴被告・反訴原告(以下「被告」という。)
クラウン無線事業協同組合
右代表者代表理事
笹井寛治
右訴訟代理人弁護士
道下徹
主文
一 被告は、その名称中に「クラウン」の名称を使用してはならず、かつ、タクシー無線事業について「クラウン」の名称を使用してはならない。
二 被告は、昭和四八年一〇月二三日大阪法務局受付の法人登記中「クラウン無線事業協同組合」なる名称の抹消登記手続をせよ。
三 被告は、原告(東住吉区)に対し金四〇万円、原告(旭区)に対し金四〇万円及び右各金員に対する平成八年三月二九日から支払済みまで年五分の割合による金員を各支払え。
四 原告らのその余の本訴請求を棄却する。
五 被告の原告らに対する反訴請求を棄却する。
六 この判決の第三項は、仮に執行することができる。
七 訴訟費用はこれを五分し、その一を原告らの、その余を被告の各負担とする。
事実及び理由
第一 請求の趣旨
(本訴)
一 被告は、その名称中に「クラウン」の名称を使用してはならず、かつ、タクシーの表示、タクシーチケットの表示及びタクシー無線などタクシー事業について「クラウン」及び「CR〇WN」の名称並びに別紙標章目録記載の標章(以下「王冠マーク」という。)を使用してはならない。
二 主文第二項同旨。
三 被告は、原告らに対し、金三〇〇万円及びこれに対する平成八年三月二九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
四 第一、第三項につき仮執行の宣言。
(反訴)
一 原告らは連帯して、被告に対し、金三〇〇万円及びこれに対する平成八年四月二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 仮執行の宣言。
第二 事案の概要
一 本訴請求及び反訴請求の内容
1 本訴請求は、昭和三九年一二月二一日に設立され、一般乗用旅客自動車運送事業(タクシー事業)を営んでいた原告(東住吉区)、及び同原告から右事業の譲渡を受けた大阪クラウンタクシー株式会社(以下「大阪クラウンタクシー」という。)の商号変更後のクラウンタクシー株式会社(本訴原告)を吸収合併した本訴原告訴訟承継人・反訴被告たる原告(旭区)が、中小企業等協同組合法に基づき昭和四一年九月二一日に「共栄旅客自動車協同組合」の名称で設立された協同組合であって(昭和四八年九月二八日現名称に変更同年一〇月二三日登記)、原告(東住吉区)及び原告(旭区)(当時の商号「ニュークラウンタクシー株式会社」)も平成四年一〇月二六日付で脱退通知をして(以上の経緯については、当事者間に争いがない。)平成五年三月三一日脱退の効力が生じるまでその組合員であったところの被告に対し、
<1> 原告(東住吉区)がタクシーチケットの管理(発行及び集金)というタクシー関連事業について、原告(旭区)がタクシー事業について使用している「クラウン」及び「CROWN」の名称並びに王冠マーク(これらを総称して、以下「本件表示」という。)は、クラウンタクシーグループを形成する原告らの営業を示す営業表示として大阪府下の同業他社及びタクシー利用客の間で周知性を取得しているところ、被告は本件表示を使用することにより原告らの営業との混同を生じさせているから、被告の右行為は不正競争防止法二条一項一号所定の不正競争に当たると主張して、
同法三条に基づき、被告の名称中に「クラウン」の名称を使用することの差止め、タクシーの表示、タクシーチケットの表示及びタクシー無線などタクシー事業について本件表示を使用することの差止め、被告の法人登記中の名称の抹消登記手続を求め、
<2> 原告(東住吉区)及び原告(旭区)(当時の商号「ニュークラウンタクシー株式会社」)は昭和四八年に被告に対し周知の営業表示であった「クラウン」の名称の使用を許諾したものであるが、右使用許諾には原告らの被告に対する支配関係等がなくなることを解除条件とする黙示的な付款が存在していたところ、被告が平成四年頃右支配関係等を解消し、遂には原告らの営業の妨害行為等を行ったことにより、右解除条件が成就し、使用許諾は効力を失ったから、被告は「クラウン」の名称を使用することは許されないと主張して、
<1>の予備的請求として、被告の名称中に、またタクシー無線事業について「クラウン」の名称を使用することの差止め、被告の法人登記中の名称の抹消登記手続を求めるとともに、
<3>被告の不正競争、あるいは被告の一連の営業妨害行為、本訴における応訴、反訴の提起は不法行為を構成すると主張して、不正競争防止法四条又は民法七〇九条に基づき、原告らが訴訟追行を委任した原告ら訴訟代理人弁護士に対して支払を約束した弁護士費用のうちの三〇〇万円及びこれに対する被告による反訴提起の日である平成八年三月二九日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求めたものである(遅延損害金の起算日につき、原告らが損害賠償請求を追加した平成七年四月一一日付準備書面には、同書面送達の日の翌日と記載されているが、原告らが被告による反訴の提起も不法行為を構成すると主張していることに照らすと、反訴提起の日とする趣旨と解される。)。
2 反訴請求は、原告らが被告に対して本訴請求にかかる訴えを提起したことは被告に対する不法行為を構成すると主張して、被告が本訴請求にかかる訴訟追行を委任した被告訴訟代理人弁護士に対して支払を約束した弁護士費用のうち三〇〇万円及びこれに対する反訴状送達の日の翌日である平成八年四月二日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求めたものである。
3 なお、被告は、原告らの本訴請求中、右1の<1>及び<3>の不正競争防止法に基づく請求について、原告らには侵害される営業上の利益がないとして、「原告らの訴えを却下する。」とのいわゆる本案前の答弁をするが、原告らの右各請求はいずれも不作為、意思表示又は金員の支払を求める給付請求であって、被告のいう原告らには侵害される営業上の利益がないとの主張は、原告らが同法三条又は四条にいう営業上の利益を侵害され、あるいは侵害されたという要件が存在するか否かという本案の問題であるから、右請求にかかる訴えは適法であって、却下すべきものではない。
二 基礎となる事実(特に証拠を掲記した事項以外は、争いがない。)
1 被告は、昭和四一年九月二一日、原告(東住吉区)、ニュー関西交通株式会社(同年一一月に「ニュークラウンタクシー株式会社」に商号変更。以下「ニュークラウンタクシー」という。)、毎日交通株式会社(以下「毎日交通」という。)、高槻交通有限会社(以下「高槻交通」という。)の四社を組合員として設立された。
昭和四八年一〇月五日、別紙無線局免許目録記載の無線局免許(以下「本件無線局免許」といい、その無線を「本件無線」という。)が被告の名義で取得された(但し、本件無線局免許について、原告らは、実質的本来的権利者は原告らであると主張し、被告は、名義どおり被告が取得したものであると主張する。)。
原告(東住吉区)は、当時関西ハイタク事業協同組合(以下「関協」という。)に加入しており、関協が免許を取得している無線局を利用してタクシー事業を行っていたが、不満があったため、被告名義で本件無線局免許を取得したものであり、以後は本件無線を利用して無線配車を行うようになった。これに伴い、被告は、前記のとおり、同年九月二八日、名称を「共栄旅客自動車協同組合」から現在の「クラウン無線事業協同組合」に変更し、同年一〇月二三日変更登記を経由した(甲二四、弁論の全趣旨)。
なお、昭和五一年五月一九日には、毎日タクシー株式会社(以下「毎日タクシー」という。)が新たに被告に加入して組合員となった。
2 その後、毎日交通及び毎日タクシー(以下「毎日両社」という。)並びに高槻交通は被告を脱退したものとされたが、毎日両社と原告(東住吉区)及びニュークラウンタクシーとの間で紛争が生じ、その際、原告ら代表者石田信行(以下「石田」という。)と三菱タクシーグループ五社(三菱交通株式会社、三菱タクシー株式会社、三菱興業株式会社、新三菱交通株式会社、新三菱タクシー株式会社。以下「三菱五社」という。)のオーナーである被告代表者笹井寛治(以下「笹井」という。)が相談した結果、平成元年一二月四日、三菱五社が被告に加入して組合員となり、笹井が代表理事に就任した(甲二四、被告代表者)。
なお、三菱五社は、「三菱」の営業表示を用いてタクシー事業をしており、タクシー無線については、昭和六三年六月一日付で、三菱ハイタク事業協同組合の名義で無線局免許を受け、この基地局をもとに三菱五社保有のタクシー六二二台に陸上移動局を開設している(甲二四、弁論の全趣旨)。
3 被告は、平成四年二月一三日、三月一五日に開催された各総会において、被告の名称を「大阪ハイタク事業協同組合」に、事務所の所在地を守口市に各変更する旨の定款変更決議をした。原告(東住吉区)及びニュークラウンタクシーは、同年四月一〇日、大阪地方裁判所に被告の右三月一五日の総会における定款変更決議の不存在確認、無効確認又は取消しを求める訴えを提起した。
被告は、更に同年九月二八日、一一月二八日に開催された各総会において同様の定款変更決議を行い、同年一二月三日、近畿運輸局長に右定款変更の認可を申請し、平成五年一月一四日にその認可を得た(同月一二日、原告(東住吉区)及びニュークラウンタクシーは、前記訴えを取り下げた。)。しかし、被告は、右定款変更の認可後も被告の名称を「大阪ハイタク事業協同組合」に変更する旨の登記手続を行わず、かえって、同年四月一七日、再び被告の名称を「クラウン無線事業協同組合」に変更する旨の定款変更決議をし、同月二〇日近畿運輸局長に右定款変更の認可を申請した(現在、右定款変更の認可はされていない。)。
4 一方、原告(東住吉区)及び当時設立中の大阪クラウンタクシーは、平成四年一〇月九日、近畿運輸局長に対し、原告(東住吉区)の有する一般乗用旅客自動車運送事業を大阪クラウンタクシーに譲渡することの認可を申請し、同年一二月二五日、大阪クラウンタクシーの設立登記により効力が生ずるものとして認可を受け、その結果、大阪クラウンタクシーが設立された平成五年二月一二日をもって原告(東住吉区)が従前行っていたタクシー事業は大阪クラウンタクシーが承継し、原告(東住吉区)は、大阪クラウンタクシーが取り扱うタクシーチケットの発行及び集金業務のみを行うようになった。大阪クラウンタクシーは、同年三月一日、商号を「クラウンタクシー株式会社」に変更した。
また、ニュークラウンタクシーも、原告(東住吉区)と同じ時に認可を得て、平成五年二月一二日設立の堺ニュークラウンタクシー株式会社にタクシー事業を譲渡し、その後は本件表示を使用してタクシー車庫、営業所などの不動産管理業務や自動車運行管理業務などタクシー事業に関連する業務を行うようになり、同年五月二五日、商号を「石田興産株式会社」に変更し、平成六年一一月二一日、右の大阪クラウンタクシーが商号変更した「クラウンタクシー株式会社」を吸収合併するとともに、商号を「クラウンタクシー株式会社」に変更した(これが原告(旭区)である。)。
5 原告(東住吉区)及びニュークラウンタクシー(以下、ニュークラウンタクシーの右事業譲渡、商号変更、吸収合併・商号変更の前後を通じ、以下「原告ら」ということがある。)は、平成四年一〇月二六日付で被告に対し脱退する旨通知し、平成五年三月三一日付で脱退の効力が生じた(被告代表者)。
そして、原告らは、平成五年一月一八日、「クラウンタクシーグループ無線共同配車組合」(同年五月一八日に名称を「クラウン無線配車組合」に変更)を結成し、同組合は、同年二月二二日、呼出名称を「クラウン」とする無線基地局及び陸上移動局の免許を取得し、タクシー無線事業を開始した(甲六二)。
第三 争点
一1 本件表示は、原告らの営業表示として大阪府下の同業他社及びタクシー利用客の間で周知性を取得しているか。
2 被告がその名称中に「クラウン」の名称を使用し、タクシーの表示、タクシーチケットの表示及びタクシー無線などタクシー事業について本件表示を使用することは、原告らの営業との混同を生じさせるものであるか。
二 原告らは昭和四八年に被告に対し「クラウン」の名称の使用を許諾したものであり、右使用許諾には原告らの被告に対する支配関係等がなくなることを解除条件とする黙示的な付款が存在し、右解除条件が成就したものであるか。
三 被告の行為は不正競争防止法二条一項一号所定の不正競争に該当し、あるいは被告の一連の行為、本訴における応訴、反訴の提起は不法行為を構成するか否か、被告が原告らに対して賠償すべき損害の額いかん。
四 原告らの被告に対する本訴請求にかかる訴えの提起は、不法行為を構成するか。
第四 争点に関する当事者双方の主張
一 争点一1(本件表示は、原告らの営業表示として大阪府下の同業他社及びタクシー利用客の間で周知性を取得しているか。)、同2(被告がその名称中に「クラウン」の名称を使用し、タクシーの表示、タクシーチケットの表示及びタクシー無線などタクシー事業について本件表示を使用することは、原告らの営業との混同を生じさせるものであるか。)について
【原告らの主張】
1 本件表示は、原告らの営業努力により、遅くとも平成五年二月一二日の時点では、原告らの営業表示として大阪府下の同業他社及びタクシー利用客の間で周知性を取得している。
(一) 原告(東住吉区)は、設立に際し、当時タクシー用車両としてトヨペットクラウンが増加しつつあったため、大阪トヨペット株式会社の了解を得て(甲一、二)、商号を「クラウンタクシー株式会社」とし、社章もトヨペットクラウンの標章と同じ王冠マークを使用することとしたものであり、それ以降、昭和四一年一一月に原告(東住吉区)の関連会社となってニュー関西交通株式会社から商号変更したニュークラウンタクシー(原告(旭区))ともども、本件表示を使用してタクシー事業を営み、昭和四八年から本件無線を使用して無線配車業務を行い、従業員教育によるマナーの向上、きめ細かな車内サービス、ワンランク上の車両の使用など営業努力を重ねるとともに、新聞、ラジオ、テレビなどによる宣伝広告に努め、昭和四六年には原告ら二社で二六四台のタクシーを保有するようになり、本件表示を営業表示とするタクシーグループとして、大阪府下における大手タクシーグループの一角を占めるようになった。
この結果、本件表示は、遅くとも原告(東住吉区)が大阪クラウンタクシーにタクシー事業を譲渡した平成五年二月一二日の時点では、大阪府下のタクシー業界や個人、法人、官庁等のタクシー利用客の間で、最高級の良質なサービスを提供するタクシーグループの営業を表示するものとして、周知性を取得した。
原告(東住吉区)は、右平成五年二月一二日の事業譲渡と同時に、大阪クラウンタクシーに対しタクシー事業につきその周知の営業表示である本件表示を使用することを許諾し、同日以降は、本件表示を使用して昭和四八年以来行っているタクシーチケット業務を行うとともに(タクシーチケットには「クラウンタクシー株式会社」の表示とともに、王冠マークを表示している。)、昭和四八年から同月までは被告の名義で、同月以降はクラウン無線配車組合の名義で行う無線配車業務を行っており、従前と同様に本件表示の周知性を維持して今日に至っている。
(二) ニュークラウンタクシーは、平成五年二月一二日に堺ニュークラウンタクシー株式会社にタクシー事業を譲渡した後は、前記のとおり商号を「ニュークラウンタクシー株式会社」から「石田興産株式会社」に変更し、本件表示を使用してタクシー車庫、営業所などの不動産管理業務や自動車運行管理業務などタクシー事業に関連する業務を行ってきたが、右のとおり平成五年二月一二日設立と同時に原告(東住吉区)からタクシー事業及び周知の営業表示である本件表示の使用を承継した大阪クラウンタクシー(同年三月一日商号を「クラウンタクシー株式会社」に変更)を平成六年一一月二一日に吸収合併して、大阪クラウンタクシーが有していたタクシー事業とともに本件表示の使用を承継し、同時に右承継の事実を対内的、対外的に明らかにするために商号を現在の「クラウンタクシー株式会社」に変更した。
こうして、原告(旭区)は、タクシー事業について本件表示の使用を承継したものであり、末尾添付の「得意先住所録」のとおり多数の官庁や一部上場企業を含む顧客を有している。
被告は、原告(旭区)が吸収合併した大阪クラウンタクシー株式会社は平成五年二月一二日に設立されたばかりの会社であり、また、右大阪クラウンタクシー株式会社は右平成六年一一月二一日の吸収合併により解散したのであるから、本件表示の使用の継続性はなく、原告(旭区)は吸収合併・現商号への商号変更以後の本件表示の使用を主張できるだけであり、被告は昭和四八年以来「クラウン」の名称を使用しているのであるから、本件表示が原告(旭区)の営業表示として周知性を取得しているはずがない旨主張するが、前記のとおり、原告(旭区)はタクシー事業とともに当時既に周知となっていた本件表示の使用を承継した大阪クラウンタクシーを吸収合併して本件表示の使用も承継したのであるから、使用の継続性は失われていない。
(三) 被告は、原告らは本件表示の使用について何らの法的権利を有しないと主張するが、前記のとおり、原告(東住吉区)はタクシー事業及びその関連事業で本件表示を使用することについて大阪トヨペット株式会社の了解を得ているのである。
2 近時におけるタクシー事業は、タクシーの運行を主とするタクシー運行業務、無線を使用してタクシーを無線配車する業務、及びタクシーチケットの発行及び料金の回収を行うタクシーチケット業務の三業務からなり、これらが不可分一体の業務として遂行されている。原告らも、原告(旭区)のタクシー運行業務、原告(東住吉区)のタクシーチケット業務、原告らだけが組合員であり実質は原告らが支配するクラウン無線配車組合(民法上の組合)の無線配車業務を三位一体のものとして運営している。
被告は、無線配車業務のみを行っており、被告の組合員である三菱五社も原告らと同じくタクシー運行業務及び関連業務を行っているから、原告らと被告及び三菱五社の営む事業は同一であり、競合関係にある。
したがって、被告が原告らの営業表示として周知性を取得している「クラウン」の名称を被告の名称中に用いるなど本件表示を使用することは、原告らと被告が同一のグループに属し、又は何らかの資本関係、経済関係、取引関係、支配・従属関係があるとの誤認混同を生じさせ、あるいはそのおそれがある。
3 なお、請求の趣旨第一、第二項は、被告の名称の変更を求めるものではない。
更に、現時点に限っていえば、被告は名称を「大阪ハイタク事業協同組合」に変更する旨の定款変更決議をしており、監督行政庁の認可も受けているのであるから、現在の被告の名称は「大阪ハイタク事業協同組合」のはずであり、法人登記上の名称変更登記手続を怠っているにすぎないのである。
【被告の主張】
1 原告らは、本件表示について不正競争防止法二条一項一号によって保護される地位を有しない。
(一) 原告らは、本件表示の使用について何らの法的権利を有しておらず、排他的権利を有しない。
原告らは、原告(東住吉区)は大阪トヨペット株式会社の了解を得た旨主張するが、「クラウン」等の名称や標章については、いずれもトヨタ自動車株式会社が多くの権利を有しており(乙四五)、大阪トヨペット株式会社が何らかの権利を有していることの主張立証がなく、トヨタ自動車株式会社の許諾なくして大阪トヨペット株式会社が使用を了解するはずがないところ、同社は、裁判所の調査嘱託に対し、了解を与えたかどうかは記録になく不明である旨回答している(乙四六)。
(二) 本件表示が原告らの営業表示として周知性を取得しているとは到底いえない。
(1) 原告(東住吉区)は、不動産業を営むものであって、タクシー事業はしていない。
原告らは、原告(東住吉区)のタクシーチケットには「クラウンタクシー株式会社」の表示とともに、王冠マークを表示していると主張するが、右「クラウンタクシー株式会社」の表示は、原告(東住吉区)を表示しているものではなく、原告(旭区)を表示しているものである。「クラウンタクシーチケット株式会社」等、タクシー事業をしていないチケットの管理会社である旨の表示がなければ、原告(東住吉区)の表示とはいえないからである。近時、カードやチケットの管理を別会社にさせることがよくあるが、いずれも、本社とは別の商号を用いるか、同名の場合は「カード」「チケット」の文字を加えている。
(2) 大阪地区におけるタクシーの総台数は約二万五〇〇〇台(個人約五〇〇〇台、法人約二万台)であり、原告(旭区)が保有するタクシー車両の台数はわずか一三五台で、その〇・五%を占めるにすぎないから、原告(旭区)は大阪地区においても無名である。
(3) 原告(旭区)が吸収合併したクラウンタクシー株式会社(本訴原告)は、大阪クラウンタクシーとして平成五年二月一二日に設立されたばかりの会社であり(しかも、同社は、原告(東住吉区)からタクシー事業の譲渡は受けたが、本件表示の譲渡は受けていない。)、また、右クラウンタクシー株式会社(本訴原告)は平成六年一一月二一日石田興産株式会社(原告(旭区))に吸収合併されたことにより解散したのであるから、本件表示の使用の継続性はなく、原告(旭区)は吸収合併・現商号への商号変更以後の本件表示の使用を主張できるだけであり、被告は昭和四人年以来「クラウン」の名称を使用しているのであるから、本件表示が原告(旭区)の営業表示として周知性を取得しているはずがない。
(4) トヨタ自動車株式会社は、生産車種のうち「クラウン」を上級車種として昭和三〇年の生産開始から平成六年三月までで合計四三九万九〇一〇台生産し、その間絶えず本件表示を使用して新聞、雑誌、テレビ、ラジオを通じて広告宣伝をしてきている。その結果、自動車免許取得者の増加に伴い、本件表示を見聞きする者はトヨタ自動車株式会社の乗用自動車を想起するのであり、前記のとおり大阪地区のタクシー約二万五〇〇〇台中の一三五台を保有するすぎない原告(旭区)を想起する者はいない。
また、大阪トヨペット株式会社は、タクシー部を設けており、「クラウンタクシー」といえば、トヨタのタクシー車両向けクラウン及びこれを取り扱う販売店の部門を指すものと認識されている。
2 そもそも被告は、中小企業等協同組合法に基づいて設立された協同組合であり、株式会社である原告らとは別個の理念によって設立され、存在しているのであって、その目的は構成員のために事業を行うことであり、株式会社である原告らの営業との混同を生ずることはない。原告らは被告の組合員ではないから、被告の運営に関与できないのである。
また、原告(東住吉区)は、現在タクシーチケット業務のみを行っているとのことであり、タクシー事業を行っていないし、無線局免許も有していない。被告は、タクシーチケット業務を行っていないし、タクシー事業も行っていない(もちろん、その認可も受けていない。)。
したがって、被告と原告(東住吉区)及びタクシー事業のみを行っている原告(旭区)とは、事業が競合していないので、被告がその名称中に「クラウン」の名称を使用しても原告らの営業との混同が生ずることはない。
3 なお、被告の名称は定款記載事項であり、定款の変更は、総会の決議事項であり、かつ監督行政庁の認可を受けなくてはならず、被告の代表理事が単独ではできないものであるから、請求の趣旨第一、第二項の請求は被告に処分権のないことを求めるものである。
二 争点二(原告らは昭和四八年に被告に対し「クラウン」の名称の使用を許諾したものであり、右使用許諾には原告らの被告に対する支配関係等がなくなることを解除条件とする黙示的な付款が存在し、右解除条件が成就したものであるか。)について
【原告らの主張】
原告らは昭和四八年九月二八日に被告に対し「クラウン」の名称の使用を許諾したものであるが、右使用許諾には、原告らと被告の間に支配・従属の関係等が消滅したときには被告はもはや「クラウン」の名称を使用することができないという黙示的な合意、すなわち右のような関係が消滅することを解除条件とするという付款があったところ、被告は、原告らには何の責めもないのに、平成四年頃右諸関係を解消し、遂には原告らのタクシー事業の妨害行為も行っているから、右解除条件が成就したというべきである。
1 タクシー業界では、昭和四八年頃にはタクシー無線を使用して機動的に配車を行うことが主流となっており、原告ら(原告(東住吉区)及びニュークラウンタクシー)も、関協に加入し、そのタクシー無線を利用して配車をしていたが、関協は組合員数が多く、個々の組合員の経営姿勢もさまざまであったため、原告らは、既に他社と異なる高レベルのサービスを提供するため各種企業努力をしていたのに関協の無線を利用している限りはその企業努力が顕かにならないので、関協を脱退して独自のタクシー無線を備えることとした。
そこで、原告らは、昭和四八年一〇月五日、被告を名義人とする本件無線局免許を取得し、無線基地局(親機)及び陸上移動局(タクシー車内の子機)を開設した。右免許取得の際、原告らは、被告並びに被告の他の組合員である毎日交通及び高槻交通との間で、被告の名義で取得した本件無線局免許は、被告名義ではあるが、実質的には原告ら固有の無線局免許として、免許とその無線設備は、原告らだけが設置、管理し、専用使用し、他の組合員は使用できないことを合意した。この合意は、被告の組合運営上の基本方針となった。
右の合意と基本方針に基づき、被告は、同年九月二八日、名称を「クラウン無線事業協同組合」に変更し(同年一〇月二三日登記)、本件無線局の呼出名称も「クラウン」とした。本件無線局免許が原告ら固有のものであることは、対内的には自明のことであったが、そのことを対外的にも同業他社や利用客に明らかにするために原告らの周知の営業表示である「クラウン」を被告の名称に付したのであった。また、本件無線局免許にかかる基地局設置場所は原告(東住吉区)の会社内とし、基地局などの物的設備、無線オペレーターなどの人員、発信機を集中管理する株式会社大阪無線サービスの株式の取得、その他本件無線に関する一切の運営費用は原告らがその全額を負担して現在に至っている。現に、本件無線を使用していた者は原告らだけであり、被告の存立目的は、実際上原告らのために本件無線に関する事業を行うこととなっていた。
このように、被告の名称に原告らの周知の営業表示である「クラウン」が付けられた理由は、原告らが本件無線を専用使用してタクシー事業を行っているからであり、これ以外には存しない。
2(一) 原告らと毎日交通の間では、原告(東住吉区)はニュークラウンタクシーの、ニュークラウンタクシーは毎日交通の、毎日交通は原告(東住吉区)の各全株式を保有するといった変則的な株式持合い状態となっていたところ、かかる資本関係を完全に分離するため、昭和五八年一二月二六日、ニュークラウンタクシーと毎日交通の間で株式譲渡契約が締結された。同時に、原告(東住吉区)は毎日交通から、ニュークラウンタクシーは毎日タクシーから、それぞれその有する被告に対する出資持分の譲渡を受け、毎日両社は被告を脱退した。昭和五九年一一月には、ニュークラウンタクシーが高槻交通からも被告に対する出資持分の譲渡を受け、高槻交通も被告を脱退した。こうして、被告は、名実ともに原告らの支配下に置かれることになった。
(二) ところが、毎日両社は、右の株式譲渡契約、持分譲渡契約は無効であると主張するようになり、昭和六〇年四月、ニュークラウンタクシーに対し、株券返還請求訴訟を提起した(第一審判決、平成四年三月の控訴審判決、同年九月の上告却下決定により、ニュークラウンタクシーの勝訴が確定した。)。毎日両社は、右訴訟における旗色が悪くなったとみるや、平成元年一一月、被告の組合員資格を失っていないと主張し、当時毎日交通の役員が被告の代表理事であったことから、原告に無断で被告理事会の招集手続をとり、組合員数で多数派となって被告を乗っ取ろうとして、梅田交通株式会社を中心とする梅田交通グループ五社を被告に加入させようとした。更に、同年一二月には、毎日両社は、被告に対し、毎日両社は依然として被告の組合員であるから自社のタクシーに対しても本件無線による配車をせよとの仮処分を申し立てた(右仮処分申立ては、毎日交通は関協、毎日タクシーは交友会の無線を利用して自社のタクシーの無線配車を行っており、本件無線を利用する必要性はなく、また、本件無線は原告らが専用使用するという取決めもあったという理由で、却下された。)。
原告らは、昭和三八年頃から原告ら及び石田が三菱五社及び笹井のために株式買戻し資金の斡旋、三菱五社のLPG仕入先に対する債務保証、三菱五社が昭和六三年に関協を脱退する際に予想された売上げ減少に対処するための原告らとのタクシーチケットの共用化をし、毎日両社との紛争に関して笹井から無利息無担保で六〇〇〇万円を借り受けるなど、笹井及び三菱五社と親密な関係を築いていたところ、笹井及び三菱五社は、毎日両社の原告らに対する攻撃を知るや石田を支持する立場を表明し、毎日両社が梅田交通グループ五社を被告に加入させようとしていることに対する対抗策として、三菱五社が被告に形式上の組合員(いわゆる「助っ人」)として加入することになり、平成五年一二月四日その加入手続がとられ、また、同月一八日笹井が形式上被告の代表理事に就任した。
右加入に先立ち、原告ら及び石田と笹井及び三菱五社との間で、三菱五社は被告の組合員として本件無線の使用等に関してその実質的権利を行使することはなく、本件無線の管理、運用、存廃などの権利行使はすべて原告らが決定して自由に行い、三菱五社、笹井及び被告はそれに従って行動する旨の合意がなされた(それ故、笹井は、前記毎日両社の仮処分申立てに対して、本件無線は原告ら固有の無線であり、原告らが専用使用すべきであり、原告ら以外は組合員といえども本件無線の使用を請求することはできないと主張していた。)。
(三) しかし、平成三年当時、原告らと三菱五社はタクシーチケットの共用化(相互の共通取扱い)をしていたところ、この頃行われたタクシー運賃の値上げに際し、原告らは値上げ申請をしたが三菱五社は値上げ申請をしなかったため、タクシーチケットは共用できるにもかかわらず運賃が異なるという変則的事態が生じ、原告らと三菱五社との関係が微妙なものとなり、続いて、平成四年一月には、前年末から行われていたニュークラウンタクシーの営業権を三菱五社に譲渡することについての話合いを、原告(東住吉区)が三菱五社から妥当な条件が提示されないことを理由に打ち切ったのに対し、ニュークラウンタクシーを安く買いたたこうとしていた笹井及び三菱五社は、交渉内容を業界紙に暴露し、ニュークラウンタクシーはなくなるとか台数が減るなどと宣伝し、業界紙を原告(東住吉区)の得意先に配布したりして営業妨害し、報復的な嫌がらせを始めた。
笹井及び三菱五社は、平成四年一月以降、前記のとおり本件無線が原告ら固有の無線であり、原告らが専用使用しており、原告らのみが被告の実質的な組合員であることを熟知し、これを承認して被告の代表理事あるいは組合員となったにもかかわらず、自らも権利行使のできる組合員であると主張し、三菱五社のタクシー六〇台に本件無線を基地局とした陸上移動局を開設しようとした(これは本件無線を原告らと三菱五社とで共同使用するということに外ならないから、原告らは、被告を債務者として、通信の相手方、通信事項又は無線設備設置場所の変更等についての郵政大臣(近畿電気通信監理局長)に対する許可申請その他無線局免許の変更・廃止に関する行為の差止めを求める仮処分を申し立て、同年三月一七日仮処分決定を得た。)。
また、笹井、三菱五社及び被告は、原告らの強い反対を押し切って、前記のとおり平成四年二月一三日、三月一五日、九月二八日、一一月二八日の四回にわたって被告の名称を「大阪ハイタク事業協同組合」に、事務所の所在地を守口市に変更する旨の定款変更決議を繰り返した。
更に、笹井、三菱五社及び被告は、同年八月には原告らの永年の敵である毎日両社を被告に加入させるに至った。原告らは、毎日両社とは被告の総会といえども同席することはできないので、右九月二八日、一一月二八日の総会には欠席した。
このような笹井、三菱五社及び被告の営業妨害行為に対して、原告らは、新たな無線局免許を取得する必要があると考え、前記のとおり、平成五年一月一八日、「クラウンタクシーグループ無線共同配車組合」(同年五月一八日に名称を「クラウン無線配車組合」に変更)を結成して、同年二月二二日に無線基地局及び陸上移動局の免許を得るとともに、近畿運輸局長の認可を得て、同月一二日、原告(東住吉区)は大阪クラウンタクシーに、ニュークラウンタクシーは堺ニュークラウンタクシー株式会社にそれぞれタクシー事業を譲渡した。
笹井、三菱五社及び被告は、平成五年になって原告らが新規に無線局免許を取得することが確実になることを知ると、報復的嫌がらせをエスカレートさせ、同年二月、本件無線局免許をもとに三菱五社のタクシー二二一台に陸上移動局を設置するための予備免許申請(呼出名称は「クラウン」)を行った。
(四) 原告らは、平成四年一〇月二六日に被告を脱退する旨の通知をし、平成五年三月三一日に脱退の効力が生じており、被告が名称を「大阪ハイタク事業協同組合」に変更する等の定款変更も同年一月一四日に近畿運輸局長の認可も得たのであるから、残る手続は右名称変更等の登記手続だけであったはずであるのに、被告は、同年四月一七日、逆に再び名称を「クラウン無線事業協同組合」に変更する旨の定款変更決議を行い、近畿運輸局長に認可を申請した。
3(一) 右1の事実から明らかなように、被告は、原告らのクラウンタクシーグループ傘下の協同組合であり、原告らに従属し、支配され、一種の子会社ともいうべき存在であって、クラウンタクシーグループの一員として原告らのタクシー事業を補完する協同組合であった。
一般に、タクシー事業の一環である無線配車業務は、タクシー会社を組合員とした中小企業等協同組合法上の協同組合名義のタクシー無線免許を利用して各タクシー会社のために行われることが多く、その場合、共通した資本関係にあるタクシー会社は、一定のタクシーグループ(例えば三菱五社の三菱タクシーグループ)を形成して、各タクシー会社を組合員とした協同組合を傘下に有しており、傘下の協同組合であることを示すためにグループの有する営業表示(例えば「三菱」)を協同組合の名称などに使用することを許諾し、かかる営業表示を名称に付した協同組合の名義でタクシー無線の免許を取得し、これをグループ各社専用のタクシー無線として使用して無線配車業務をしているのが実情である。
この場合、タクシー無線免許の名義人となっているグループ傘下の協同組合では、無線に関する資金、人員、設備、運営などの権限は、その協同組合を支配しているグループに実質的に帰属しており、協同組合がグループから独立して実質的にグループ各社と対等な力を持つ組織として存在し、運営されることはありえないということができる。したがって、法人の形態は異なるが、大局的にみれば、協同組合は、グループあるいはその主たる会社を親会社とした場合の子会社としての地位にあるということができ、更には、タクシー事業を行うグループの内部にあって各タクシー会社のために無線配車業務を担当する一部門であるということもできる。
原告らと被告の関係もまさにこれと同じ関係である。
(二) したがって、原告らは被告に対し「クラウン」の名称の使用を許諾したということができるが、右使用許諾は、原告らと被告との間に支配・従属の関係、親子会社的な関係、タクシー事業を補完する関係、原告らのグループの一員として行動すべき関係などが存在することを前提とするものであって、このような関係が原告らの責めに帰すべからざる事由により消滅したときには被告はもはや「クラウン」の名称を使用することができないという黙示的な合意、すなわち右のような関係が消滅することを解除条件とするという付款が存在していたというべきである。
そして、被告は、原告らには何の責めもないのに、平成四年頃、突如右の諸関係を解消し、遂には原告らのタクシー事業の妨害行為も行っているから、もはや右解除条件が成就したというべきであり、使用許諾の効力は失われている。
また、被告は、名称を「大阪ハイタク事業協同組合」に変更する旨の定款変更決議を行い、この決議は平成五年一月一四日にされた近畿運輸局長の認可により効力を生じており、被告は、同日に「クラウン」の名称の使用を廃止することを自ら明らかにしている。
そうすると、被告は、その名称中に、またタクシー無線事業について「クラウン」の名称を使用することは許されない。
【被告の主張】
1 右1の主張は争う。
本件無線局免許は被告のものである。被告の保有する本件無線を使用していた者と原告らとの連続性はない。
2 平成四年三月一七日に被告を債務者として無線設備設置場所変更等禁止の仮処分決定がなされたが、その債権者らと原告らとは同一性がない。しかも、右仮処分の申立ては無条件で取り下げられており、その本案訴訟は、本件無線局免許が被告のものであること、免許事項の変更は近畿電気通信監理局長の権限であることを理由に、地裁、高裁、最高裁とも被告の勝訴で終わっている。
被告が平成四年二月一三日、三月一五日、九月二八日、一一月二八日の四回にわたって定款変更決議をしたことは認めるが、「原告らの強い反対を押し切って」との点は否認する。
四回にわたって決議が行われたのは、初めの三回の決議に些細な瑕疵があり、それに対して原告らから決議不存在確認等の訴訟を提起されていたためである。
被告がいったん「大阪ハイタク事業協同組合」に変更した名称を元に戻したのは、原告らが訴訟を提起してまで変更に反対したこと、本件無線局免許の名称の変更の必要性に気づいたこと、被告の財産確認のためである。
3 被告の名称については、原告らは何らの法的権利を有していないのであり、被告は、原告らの使用許諾に基づいて名称中に「クラウン」の名称を使用することになったものではない。
原告らは、訴訟を提起してまで被告の名称変更に反対したのであるから、被告の名称を変更しないことは、原告らの強い希望であった。
三 争点三(被告の行為は不正競争防止法二条一項一号所定の不正競争に該当し、あるいは被告の一連の行為、本訴における応訴、反訴の提起は不法行為を構成するか否か、被告が原告らに対して賠償すべき損害の額いかん。)について
【原告らの主張】
1 被告は、原告らがまだ被告の組合員であって本件無線を専用使用してタクシー事業を行っている時期には、原告らの反対を押し切って四回も総会を開催して強引に名称を「大阪ハイタク事業協同組合」に変更する決議をしたが、これは、笹井、三菱五社及び被告が、原告らの周知表示である「クラウン」を被告の名称から排除することによって、本件無線は原告ら固有の無線ではなく、原告らは独自の無線を持たない弱小タクシー会社であるとのイメージを、被告の名称にかつて原告らと三菱五社で結成していた「大阪ハイヤータクシー協会」の通称「大阪ハイタク協会」の主要部を付することによって、原告らは今なお三菱五社と深い企業関係にあるとのイメージを、また、被告の事務所の所在地を原告(東住吉区)の本社所在地の大阪市から三菱五社の本社所在地の守口市に変更することによって、本件無線を使用している原告らが笹井及び三菱五社の子会社的立場にあるかのような誤ったイメージを同業他社及びタクシー利用客に与え、原告らの評価を傷つけ、営業妨害をすることを狙ったものである。
平成五年一月には「大阪ハイタク事業協同組合」への名称変更の定款変更が認可され、登記手続が可能になったにもかかわらず、原告らが新規の無線局免許を取得することがほぼ確実になったことを察知した被告は、右登記手続を行わず放置したのみならず、同年二月に「クラウン無線事業協同組合」の名称のままで予備免許を申請したが、これは、三菱五社のタクシーが「クラウン無線」の表示と「クラウン」の呼出名称で大阪府下を走ることにより、同業他社やタクシー利用客に対し、原告らと三菱五社とは営業上密接な企業関係があるとの混同を生じさせ、更に、原告らの得意先を奪い、あるいは優良タクシーのブランドである「クラウン」の名声を傷つけるためであった。
加えて、被告は、平成五年三月三一日に原告らの被告脱退の効力が生じるや、その直後の同年四月一七日に突如として名称を「クラウン無線事業協同組合」に戻す旨の決議をし、その認可を申請したが、これは、タクシー利用客や得意先をして、三菱五社が「クラウン無線」をも運営していると思わせ、被告は「クラウングループ」とも三菱五社とも密接な関係にあると思わせることを狙った行為である。
笹井及び三菱五社は昭和六三年以降「三菱ハイタク事業協同組合」名義で二波の無線局免許を保有してタクシー事業を続けており、平成五年四月当時更に一波の無線局免許を使用しなければならないという事情はないことも考えれば、被告には原告らの営業を妨害しようとする害意、不正競争をしようとする意思があることが明らかである。
なお、笹井が三菱五社のオーナーで、被告の代表理事であることからすると、笹井あるいは三菱五社の認識、行動は、すなわち被告の認識、行動と評価することができる。
2 右1の行為は、不正競争行為であるだけでなく、営業妨害行為そのものであり、これら一連の行為、本訴における応訴、反訴の提起は原告らに対する不法行為を構成するというべきである。
3 そのため、原告らは、本訴を提起し、反訴に応訴するために原告ら訴訟代理人に訴訟追行を委任せざるをえず、三〇〇万円を超える額の弁護士費用を支払うことを約したところ、被告は、少なくともそのうちの三〇〇万円を賠償すべき義務があるというべきである。
【被告の主張】
原告らの主張は争う。
前記のとおり、被告がいったん「大阪ハイタク事業協同組合」に変更した名称を元に戻したのは、原告らが訴訟を提起してまで変更に反対したこと、本件無線局免許の名称の変更の必要性に気づいたこと、被告の財産確認のためである。
四 争点四(原告らの被告に対する本訴請求にかかる訴えの提起は、不法行為を構成するか否か、原告らが被告に対して賠償すべき損害の額いかん。)について
【被告の主張】
1 そもそも原告らの営業と被告の事業とは競合するものではなく、被告が「クラウン」の名称を使用してもおよそ誤認混同は生じない(原告ら代表者自身、その代表者尋問において、被告の名称により営業の混同は生じていない旨供述している。)。また、原告らは、被告が本件無線の呼出名称を「クラウン」としている旨主張し、原告ら代表者もその旨供述するが、これは事実に反する虚偽の供述である。本訴は、かかる原告ら代表者の虚偽の意見に基づいて提起されたものであるから、被告に対する不法行為を構成するというべきである。
2 そのため、被告は、被告訴訟代理人に訴訟の追行を委任して、三〇〇万円以上の額の弁護士費用を支払う旨を約したところ、原告らは、少なくともそのうちの三〇〇万円を被告に対し賠償すべき義務があるというべきである。
【原告らの主張】
被告の主張は争う。
第五 争点に対する判断
一 本件の事実関係は、証拠(各項掲記のもの)及び弁論の全趣旨によれば、次のとおりであると認められる。
1 本件事実経過の概要(前記第二の二の基礎となる事実、及び甲一ないし三、二四、四一、四三、四四、四五の1・2、四六、四九ないし五二、五八の1・2、六二、検甲一、四の1~4、乙二九、三八の1~3、五四の1・2、五五の1・2、五六、五八、六五)
(一) 原告らの現代表者石田は、富士タクシー株式会社から五九台のタクシー営業権を買収して、昭和三九年一二月二一日、原告(東住吉区)を設立した。
その際、石田は、原告(東住吉区)の使用車両を他社製からタクシー車両に適する車両として評価の高かったトヨタ自動車株式会社製「トヨペットクラウン」に変更し、商号、営業表示に「クラウン」「CROWN」を、社章に王冠マークを使用したいと考え、当時経営建直しのため積極的な営業活動を展開していた大阪トヨペットクラウン株式会社から買収資金の一部の融資を受けるとともに、同社の口頭による許諾を受けて、商号を「クラウンタクシー株式会社」とし、社章に王冠マークを使用することとした。同社は、原告(東住吉区)設立の祝いとして、タクシー車両に「クラ」と「ウン」の間に王冠マークを挟んだ表示をするための塗装用金型を贈った。
こうして、原告(東住吉区)は、会社設立と同時に本件表示の使用を始め、タクシー車両はすべてトヨタ自動車株式会社製のトヨペットクラウン等を大阪トヨペット株式会社から購入するようになった。
また、石田は、昭和四〇年六月、ニュー関西交通株式会社(タクシー車両三八台)の経営権を買収し、同社は、昭和四一年一一月商号を「ニュークラウンタクシー株式会社」に変更した。
(二) 昭和四一年九月二一日、原告(東住吉区)及びニュークラウンタクシー(当時の商号「ニュー関西交通株式会社」)は、毎日交通及び高槻交通とともに、被告(当時の名称「共栄旅客自動車協同組合」)を設立した。その現実の事業は、主に、組合員に対する事業資金の貸付け及び組合員のためにする事業資金の借入れ等の金融であった。代表理事には毎日交通の当時の代表取締役が就任したが、組合の実質的な指揮は石田が執っていた。
(三) 原告(東住吉区)は、昭和四二年、大阪トヨペットクラウン株式会社から融資を受けて同年一二月秀栄交通株式会社別所営業所の営業権を買収し、続いて、昭和四三年、同社本社営業所の営業権を買収し、キング交通、日の出交通の経営権を取得するなどした結果、昭和四六年二月にはその認可保有台数を一二五台とし、ニュークラウンタクシーも、昭和四五年にキング交通を合併するなどして、昭和四六年二月にはその認可保有台数を一二九台とした(なお、現在における大阪地区のタクシー車両の台数は、法人、個人を合わせて約二万五〇〇〇台である。)。
(四) 昭和四八年当時、原告ら(原告(東住吉区)及びニュークラウンタクシー)は、関協に加入しており、関協が免許を受けている無線基地局を利用してタクシー車両の無線配車を行っていたが、関協に加入している各社の営業姿勢に疑問を感じた石田は、関協から脱退した上で独自に無線局免許を取得して独自の無線配車業務を行おうと考え、被告の他の組合員であった毎日交通及び高槻交通にその旨打診したところ、毎日交通は営業政策上関協を脱退できない事情があり、引き続き関協の無線を使用するとのことであり、高槻交通は同社固有のタクシー無線を備えていたことから、関協の脱退につき賛同が得られなかった。
そこで、原告らは、被告並びに毎日交通及び高槻交通との間において、被告の名義で無線局免許を取得するが、右無線は、原告ら固有の無線として、原告らのみが管理、使用し、他の被告組合員である毎日交通及び高槻交通はこれを一切使用しないことを合意するとともに、そのことを対外的に明らかにするため、被告の名称に原告らの営業表示である「クラウン」の名称を取り入れて、「共栄旅客自動車協同組合」から「クラウン無線事業協同組合」に変更することとし、このことについて毎日交通及び高槻交通の同意を得た。
そして、原告らは関協から脱退し(毎日交通及び高槻交通は、関協に残留した。)、被告は、昭和四八年九月二八日、その名称を「クラウン無線事業協同組合」に変更し(同年一〇月二三日変更登記)、同年一〇月五日、本件無線局免許を取得した。それ以降、原告(東住吉区)は一三五台の車両に、ニュークラウンタクシーは一二九台の車両にそれぞれ本件無線局免許に基づく陸上移動局を開設して無線配車を行い、車両の屋上につける表示灯に王冠マークを表示するようになった。毎日交通及び高槻交通は、前記合意に従い、本件無線を全く利用しなかった。また、本件無線は原告(東住吉区)の本社所在地内に基地局が設置され、オペレーター等の人件費、発信機を集中管理する株式会社大阪無線サービスの株式の取得費用等、本件無線に関する費用は、すべて原告らのみがその全額を負担していた。
なお、昭和五一年五月一九日、毎日タクシーが新たに被告に加入して組合員となったが、やはり本件無線を利用することはなかった。
(五) ところで、被告の組合員である原告らと毎日交通の間においては、原告(東住吉区)はニュークラウンタクシーの、ニュークラウンタクシーは毎日交通の、毎日交通は原告(東住吉区)の各株式を保有するという変則的な株式持合い関係を維持していたところ、昭和五七年半ば頃から、右株式の持合い関係を解消するための話合いがなされ、昭和五八年一二月二六日、ニュークラウンタクシーと毎日交通の間で株式譲渡契約が締結された。同時に、原告(東住吉区)は毎日交通から、ニュークラウンタクシーは毎日タクシーから、それぞれ代金各二〇〇〇万円で被告に対する出資持分各五〇〇口の譲渡を受ける旨の契約を締結し、毎日両社は被告を脱退した。更に、昭和五九年一一月には、高槻交通も、同社の被告に対する出資持分五〇〇口をニュークラウンタクシーに譲渡して被告を脱退したため、被告の組合員は原告ら二社のみとなった。
(六) しかし、毎日両社は、前記株式譲渡契約及び被告の持分譲渡契約は無効であると主張するようになり、昭和六〇年四月、ニュークラウンタクシーに対し株券返還請求訴訟を提起した(平成四年ニュークラウンタクシーの勝訴確定)。更に、毎日両社は、平成元年一一月、被告理事会を招集して梅田交通株式会社を中心とする梅田交通グループ五社を被告に加入させようとし、また、同年一二月、被告に対し、毎日両社は依然として被告の組合員であると主張して、毎日両社のタクシーにも本件無線による配車をせよとの仮処分を申し立てた。
石田は、原告らと毎日両社との紛争を知った旧知の間柄である三菱五社のオーナー笹井が支援を申し出たので、笹井と相談した結果、三菱五社を形式上被告に加入させることとし、平成元年一二月四日開催の理事会で三菱五社の被告への加入が承認され、同月一八日、笹井が被告の代表理事に就任した。
このように三菱五社は被告の組合員になったが、石田と笹井との間では、三菱五社はあくまでも石田ないし原告らを支援するために被告に加入するものであり、本件無線は原告らが実質的な権利を持ち、専用使用するもので、三菱五社は本件無線について組合員として実質的権利を行使しないとの合意があった。現に、三菱五社は、昭和六三年に関協を脱退して三菱ハイタク事業協同組合を設立し、同年六月一日付で同組合の取得した無線局免許を使用して三菱五社保有のタクシー六二二台に対する無線配車業務を行っていたため、本件無線を管理、使用するようなことはなかった。それ故、毎日両社が申し立てた右仮処分事件において被告(代表理事笹井)が提出した平成二年一月一七日付準備書面においても、被告が取得した本件無線局免許は、当時被告組合員であった原告ら及び毎日交通、高槻交通全員の同意により、もっぱら原告らに対する無線配車を行うために取得されたものであり、また、本件無線局免許に基づく無線配車事業の事業主体は、実質的には当初から一貫して被告ではなく原告らである旨主張した(右仮処分申立ては却下された。)。
(七) ところが、平成三年当時、原告らと三菱五社はタクシーチケットの相互の共通取扱いをしていたところ、この頃行われたタクシー運賃の値上げに際し、原告らは値上げ申請をしたが三菱五社は値上げ申請をしなかったため、タクシーチケットは共用できるにもかかわらず運賃が異なるという変則的事態に至って原告らと三菱五社との間で軋轢が生じ、その過程で出ていたニュークラウンタクシーの営業権の三菱五社への譲渡の話を平成四年一月に原告(東住吉区)が断ったことから、原告らないし石田と三菱五社ないし笹井との関係が悪化した。なお、被告は、本件無線につき、近畿電気通信監理局長から、呼出名称を「みつびしタクシー」とし、免許の日を平成三年六月一日とする無線局免許状の交付を受けている。
更に、三菱五社は、前記のような約束に反して、自らも権利行使ができると主張し、三菱五社のタクシー六〇台に本件無線を基地局とした陸上移動局を開設しようとしたので、原告らは、大阪地方裁判所に対し、被告を債務者として、本件無線局免許について、通信の相手方、通信事項又は無線設備設置(常置)場所の変更等についての郵政大臣(近畿電気通信監理局長)に対する許可申請その他無線局免許の変更・廃止に関する行為を行ってはならないとの仮処分を申し立て、同年三月一七日、その旨の仮処分決定を得た(原告らは、平成五年二月一二日、右申立てを取り下げた。)。
(八) 平成四年一月三一日に開催された被告理事会において、代表理事として議長を務めた笹井は、事務所の所在地を大阪市から守口市(三菱五社の本社内)に、被告の名称を「クラウン無線事業協同組合」から「大阪ハイタク事業協同組合」に変更することを提案した。中村時雄理事(新三菱タクシー株式会社)及び武田勝理事(三菱タクシー株式会社)は、右提案に賛成して、「現在大阪ハイヤータクシー協会を設立して、七社が一般乗用旅客自動車運送事業を営んでいるので、その意味からすれば名称を統一して、大阪ハイタク事業協同組合と改称して運営することが望ましい。」との意見を述べ、これに対し、武田靖人理事(原告(東住吉区))及び佐藤義富理事(ニュークラウンタクシー)は、右提案に反対して、「クラウンの名称は昭和四八年一〇月の認可により、毎日交通・高槻交通・クラウン・ニュークラウン四社の了解の下に、クラウンの名称で、無線には多額の投資をしてきた経過があるので、ここのところはどなたが言われようとも名称変更は困る、現状のままがいいので反対。」との意見を述べ、採決では可否同数になったため、議長である笹井の賛成により提案どおり可決された。同年二月一三日に開催された臨時総会においても、賛成四、反対二、無投票二となり、議長に選任された中村時雄理事の賛成により右提案どおり可決されたものとされた。右総会においては、毎日両社も、組合員として出席し、右武田靖人理事及び佐藤義富理事がその組合員資格に異議を唱えたが、多数決により毎日両社は組合員資格を喪失していないものとされた。被告は、同年二月二一日には、原告(東住吉区)に対し、「守口市」の「大阪ハイタク事業協同組合」の名義で、内容証明郵便を送付し、主たる事務所及び名称が変更になったとして、株式会社大阪タクシー無線サービスの大阪集中基地局設備利用料金は今後大和銀行守口支店の「大阪ハイタク事業協同組合」名義の口座に振り込むよう通知した。
更に、同年三月四日に開催された被告理事会において、事務所所在地及び名称変更が議題に採り上げられ、議長の笹井は、右総会の決議どおりでよいかについて審議を求めた。中村時雄理事は、「心機一転まき直しをするために変更することが必要である。」との意見を述べ、前回同様、同理事及び武田勝理事が賛成、武田靖人理事及び佐藤義富理事が反対で、可否同数になったため、議長の笹井の賛成により提案どおり可決された。同月一五日に開催された臨時総会においても、武田靖人理事は毎日両社は組合員資格がないとの意見を述べたが、議長に選任された中村時雄理事は、運輸局により前回二月一三日の総会決議が無効であると判断されたのは、組合員数が九名であれば出席議決権数の三分の二以上の賛成が得られていないとの理由であり、毎日両社が組合員資格がないとすれば前回の総会決議が成立していることになると説明した。そして、事務所所在地及び名称変更の議案について、武田勝理事が、賛成の立場から「理事会で提案したとおり、クラウンという固有名詞よりも三菱もあり毎日タクシーもありクラウンもあるという協同組合の母胎を推進するならば名称変更もやぶさかでない。」との意見を述べ、武田靖人理事が従前どおり反対の意見を述べ、議長の中村時雄理事が「組合員が、一般乗用旅客自動車運送事業を経営しているので固有名詞にいささか難点がある…」と述べて採決をし、賛成六、反対二で提案どおり可決された。
原告らは、同年四月一〇日、大阪地方裁判所に対し、被告の右三月一五日の総会における事務所所在地及び名称変更の定款変更決議の不存在確認、無効確認又は取消しを求める訴訟を提起した(原告らは、平成五年一月一二日、右訴えを取り下げた。)。
(九) 更に、被告は、平成四年八月、毎日両社を被告に再加入させた上、同年九月二八日に開催された臨時総会において、再度被告の事務所所在地及び名称変更の定款変更決議をした。
原告らは、同年一〇月二六日付内容証明郵便により、被告に対し脱退する旨通告し、平成五年三月三一日付で脱退の効力が生じた。
被告は、平成四年一一月二八日に開催された臨時総会においても改めて被告の事務所所在地及び名称変更の定款変更決議をした。そして、被告は、同年一二月三日に近畿運輸局長に対し定款変更の認可を申請し、平成五年一月一四日にその認可を得たにもかかわらず、事務所所在地を守口市に、名称を「大阪ハイタク事業協同組合」に変更する旨の登記手続をせず、放置し、かえって、同年四月一七日、通常総会において名称を元の「クラウン無線事業協同組合」に変更する旨の定款変更決議をし、同月二〇日近畿運輸局長に対し、その旨の定款変更の認可を申請した(右認可申請に対する認可は未だなされていない。)。
(一〇) 原告らは、被告が三菱五社の意のままに運営される状況に対処して、新たに無線局免許を得られないものかと近畿運輸局に打診していたところ、同一の会社(原告ら)のために二波の無線局免許は出せないと言われため、営業譲渡により新会社を設立すればよいのではないかと考え、原告(東住吉区)の営業譲渡の相手方として大阪クラウンタクシーを、ニュークラウンタクシーの相手方として堺ニュークラウンタクシーを設立することとした。そして、平成四年一〇月、近畿運輸局長に対し、原告(東住吉区)及び設立中の大阪クラウンタクシーは、原告(東住吉区)の一般乗用旅客自動車運送事業を大阪クラウンタクシーに、ニュークラウンタクシー及び設立中の堺ニュークラウンタクシー株式会社は、ニュークラウンタクシーの一般乗用旅客自動車運送事業を堺ニュークラウンタクシー株式会社にそれぞれ譲渡することの認可を求め、同年一二月二五日、大阪クラウンタクシー及び堺ニュークラウンタクシー株式会社の設立により効力が生ずるものとして認可を受けた。
原告らは、平成五年一月一八日、「クラウンタクシーグループ無線共同配車組合」を結成し(同年五月一八日に名称を「クラウン無線配車組合」に変更)、同組合は、同年二月二二日、呼出名称を「クラウン」とする無線基地局及び陸上移動局の免許を取得し、タクシー無線事業を開始した。
同月一二日、大阪クラウンタクシーが設立された結果、原告(東住吉区)が従前行っていたタクシー事業は、大阪クラウンタクシーが承継し、原告(東住吉区)は、大阪クラウンタクシーが取り扱うタクシーチケットの発行及び集金業務のみを行うようになった。
また、同日、堺ニュークラウンタクシー株式会社が設立された結果、ニュークラウンタクシーが従前行っていたタクシー事業は堺ニュークラウンタクシー株式会社が承継し、ニュークラウンタクシーは、本件表示を使用してタクシー車庫、営業所などの不動産管理業務や自動車運行管理業務などタクシー事業に関連する業務を行うようになり、同年五月二五日、商号を「石田興産株式会社」に変更し、平成六年一一月二一日、右の大阪クラウンタクシーが同年三月一日に商号変更していた「クラウンタクシー株式会社」を吸収合併するとともに、商号を「クラウンタクシー株式会社」に変更した(これが原告(旭区)である。)。
(二) 原告(東住吉区)は、前記のとおり、設立当初からその保有するタクシー車両に本件表示を使用していたが、右事業譲渡後のタクシーチケット業務において発行しているタクシーチケットには、「クラウンタクシー株式会社」の文字、原告(東住吉区)の所在地、王冠マークが印刷されている。また、原告(旭区)が保有しているタクシー車両は、現在一三五台であり、その左前ドアには「クラウン」と「タクシー」の間に王冠マークを挟んだ表示が、右前ドアには「CROWN」と「TAXI」の間に王冠マークを挟んだ表示が付され、車両の屋根には「CROWN」の表示及び王冠マークからなる表示灯が取り付けられている。
2 原告らによる宣伝広告(甲四ないし一一、二二の1~29、四二、検甲二)
(一) ラジオ、テレビ、新聞による広告
(1) 毎日放送ラジオにおいて、昭和五二年一〇月から昭和五七年一〇月までの間、ほぼ毎日一回五秒間(昭和五四年の六か月間は一〇秒間)の交通情報、及び昭和五六年八月五日から一五日までの間、スポット
(2) 大阪放送ラジオにおいて、昭和五四年五月及び六月に、各一回二〇秒間のスポット
(3) 朝日放送ラジオにおいて、昭和五六年八月五日から一五日までの間、スポット
(4) 回テレビ大阪において、昭和五七年一〇月一三日から平成五年三月三一日までの間、スポット(平成三年四月以降は、毎日一回又は二回で、一五秒間の「クラウンタクシー新しい姿」と題するスポット)
(5) 毎日新聞又は朝日新聞において、昭和五四年八月から平成五年一月までの間、毎年二回又は三回、「クラウン無線タクシー」の文字及び王冠マークを表示した新聞広告
(6) スポーツニッポンにおいて、平成二年三月二四日に一回同様の新聞広告
(二) 印刷物の配布
(1) 昭和五〇年用から平成五年用まで毎年、「クラウン無線タクシー」の文字及び王冠マークを印刷したポケットカレンダー各五万枚(昭和五三年用、五五年用、五六年用及び五八年用は一〇万枚)
(2) 昭和五四年用から平成五年用まで毎年、卓上日記式カレンダー(一〇〇〇枚から六二五〇枚へ段階的に増加)
(3) 昭和六一年一〇月、「クラウン無線タクシー」という文字及び王冠マークを印刷したケースに入れられたテレホンカード三〇〇〇枚
(4) 昭和四七年、「クラウンタクシー株式会社」「クラウンタクシー」「CROWN TAXI」の文字及び王冠マークを印刷した原告(東住吉区)のパンフレット
3 出版物における原告らに関する記事の掲載(甲一二ないし二〇、四八、五三ないし五七)
(一) 昭和五五年一月二日株式会社交通界発行「近畿のハイヤー・タクシー」(カメラルポ「クラウンタクシーの乗務員教育を追って」及び「クラウン礼賛」と題する短文)
(二) 昭和五七年九月一日財団法人大阪都市協会発行「大阪人」三六巻九号(「心うれしいタクシー会社」と題する短文)
(三) 昭和五九年八月二四日付毎日新聞(毎日新聞特集ふらいで-と・どのくらい大阪「今週のテーマ・タクシー」)
(四) 昭和六二年四月二一日付日経産業新聞(大阪)(「接客競う浪速のタクシー」)
(五) 平成元年一一月三〇日付日本経済新聞(大阪)(「関西のタクシーサービス 東京をリード」)
(六) 平成三年一月一五日付毎日新聞(大阪)(サービス乗せタクシー走る大阪のマチ」)
(七) 平成三年六月一五日、平成六年三月一五日大阪ハイタク政策研究会発行の各「全国タクシー切り抜き情報 タクシーナウ」
(八) 平成四年二月一日付、同月一五日付、同月二二日付、同年一一月七日付各交通読売新聞(いずれも本件紛争に関する記事)
(九) 平成五年四月二五日付大阪交通新聞(「大阪ハイタク協が旧姓に戻す笹井理事長の思惑が揺れ動く」本件紛争に関する記事)
(一〇) 平成六年八月一日付朝日新聞(大阪)(「大阪タクシーの名物 気配りサービス不況風に勝てず 冷たいおしぼりは健在」)
(一一) 平成七年一二月二〇日付読売新聞(「なにわのタクシー 4種運賃」)
二 以上の認定事実を前提に、まず、争点一1(本件表示は、原告らの営業表示として大阪府下の同業他社及びタクシー利用客の間で周知性を取得しているか。)について判断する。
原告らは、本件表示は、原告らの営業努力により、遅くとも平成五年二月一二日の時点では、原告らの営業表示として大阪府下の同業他社及びタクシー利用客の間で周知性を取得していると主張するところ、不正競争防止法二条一項一号にいう営業表示がいわゆる周知性を獲得すべき人的範囲である「需要者」は、営業の種類に応じて、一般消費者又は取引業者、あるいはその両方ということになるが、原告(旭区)のタクシー事業及び原告(東住吉区)のタクシーチケット業務というタクシー関連事業については、同業他社が取引業者に当たると認めるに足りる証拠はなく、他に取引業者の存在について主張立証がないから、本件においては、一般消費者たるタクシー利用客の間における周知性を問題とすべきである。
しかして、原告(東住吉区)は、昭和三九年一二月二一日に設立されて以来、一貫して「クラウンタクシー株式会社」の商号を使用し、タクシー車両にも本件表示を使用し続けてきたものであり、平成五年二月一二日以降は、タクシーチケット業務を行うのみとなったものの、原告(東住吉区)のタクシー事業の譲渡を受けた大阪クラウンタクシーがその直後に「クラウンタクシー株式会社」に商号を変更し、本件表示を継続して使用し、これをニュークラウンタクシーから商号変更をした「石田興産株式会社」が吸収合併をし商号変更をして原告(旭区)となり、現在に至っているというのであるから、原告らは、相当長期間にわたり本件表示を使用してきたものということができる。
しかしながら、大阪地区におけるタクシー車両の台数は、現在、法人、個人を合わせて約二万五〇〇〇台であるのに対し、原告らのタクシー保有台数は、最大に達した昭和四六年二月の時点でも、原告(東住吉区)一三五台、ニュークラウンタクシー(原告(旭区))一二九台の合わせて二六四台であり、現在では原告(旭区)のみの一三五台であって、その大阪府下におけるタクシー車両全体の約〇・五%を占めるにすぎず、タクシー利用客が路上で本件表示を付した原告らのタクシー車両を認知する確率は極めて低いといわざるをえないから、本件表示が大阪府下において原告らの営業表示として周知性を取得したというためには、相当な期間にわたり、相当な頻度で宣伝広告を行うことが必要であるといわなければならない。
原告らは、前記一2のとおり宣伝広告を行ってきたことが認められるところ、その日のラジオ、テレビ、新聞による広告のうち、テレビ大阪については、昭和五七年一〇月一三日から平成五年三月三一日までの間、スポット(平成三年四月以降は、毎日一回又は二回で、一五秒間の「クラウンタクシー 新しい姿」と題するスポット)で広告したものであるが、ラジオ放送については、毎日放送ラジオにおける交通情報は、ほぼ毎日一回五秒間(六か月間のみ一〇秒間)という極めて短いもので、その広告の内容も明らかでなく、大阪放送ラジオ及び朝日放送ラジオのスポットは単発的、一時的なものであり、毎日新聞又は朝日新聞における「クラウン無線タクシー」の文字及び王冠マークを表示した新聞広告も、昭和五四年八月から平成五年一月までの間、毎年二回又は三回であり(スポーツニッポンは平成二年三月二四日の一回)、そのスペースも大きいものとはいえない(甲二二の1~29)。同(二)のポケットカレンダー、卓上日記式カレンダー、テレホンカード、パンフレットについては、これらがどのような範囲の人に対してどのような形で配布されたかが明らかでない。前記一3の出版物における原告らに関する記事については、(二)の昭和五七年九月一日財団法人大阪都市協会発行「大阪人」三六巻九号(「心うれしいタクシー会社」と題する短文)はどの程度の部数がどのような形で配布されたのか明らかでなく、(三)の昭和五九年八月二四日付毎日新聞(毎日新聞特集ふらいで-と・どのくらい大阪「今週のテーマ・タクシー」)、(四)の昭和六二年四月二一日付日経産業新聞(大阪)(「接客競う浪速のタクシー」)、(五)の平成元年一一月三〇日付日本経済新聞(大阪)(「関西のタクシー サービス 東京をリード」)、(六)の平成三年一月一五日付毎日新聞(大阪)(サービス乗せタクシー走る 大阪のマチ」)、(一〇) 平成六年八月一日付朝日新聞(大阪)(「大阪タクシーの名物 気配りサービス不況風に勝てず 冷たいおしぼりは健在」)、(二)平成七年一二月二〇日付読売新聞(「なにわのタクシー 4種運賃」)は、大阪府下におけるタクシー業界の実情を紹介する記事の中で、原告らのタクシーにおけるサービスの内容について簡単に触れられているにすぎず、(一)の昭和五五年一月二日株式会社交通界発行「近畿のハイヤー・タクシー」(カメラルポ「クラウンタクシーの乗務員教育を追って」及び「クラウン礼賛」と題する短文)、(七)の平成三年六月一五日、平成六年三月一五日大阪ハイタク政策研究会発行の各「全国タクシー切り抜き情報 タクシーナウ」、(八)の平成四年二月一日付、同月一五日付、同月二二日付、同年一一月七日付各交通読売新聞(いずれも本件紛争に関する記事)、(九)四の平成五年四月二五日付大阪交通新聞(「大阪ハイタク協が旧姓に戻す 笹井理事長の思惑が揺れ動く」本件紛争に関する記事)は、いずれもその記事内容からいわゆる業界紙(誌)であって、通常タクシー利用客が購読するものではない。
以上によれば、仮にタクシー業界、すなわち同業他社の間において、本件表示が原告らの営業表示として知られているとしても、右認定程度の宣伝広告、出版物における掲載では、原告ら主張の平成五年二月一二日の時点はもちろん、現在においても、未だタクシー利用客の間において周知性を取得したとは認められない。原告らの前記主張は採用することができない。原告らは、原告(旭区)は、末尾添付の「得意先住所録」記載のとおり多数の官庁や一部上場企業を含む顧客を有していると主張するが、これらが原告(旭区)の顧客であると認めるに足りる証拠がなく、そもそも原告らがどのような基準で「顧客」あるいは「得意先」と称しているのか明らかでないから、これをもって、本件表示が周知性を取得していることの証左とすることはできない。
そうすると、本件表示が原告らの営業表示として大阪府下において周知性を取得していることを前提に、被告に対し、被告の名称中に「クラウン」の名称を使用することの差止め、タクシーの表示、タクシーチケットの表示及びタクシー無線などタクシー事業について本件表示を使用することの差止め、被告の法人登記中の名称の抹消登記手続、及び被告の行為が不正競争防止法二条一項一号にいう不正競争に該当することを理由に損害賠償を求める原告らの請求は、争点一2を含むその余の点について判断するまでもなく、理由がないといわなければならない。
三 次に、争点二(原告らは昭和四八年に被告に対し「クラウン」の名称の使用を許諾したものであり、右使用許諾には原告らの被告に対する支配関係等がなくなることを解除条件とする黙示的な付款が存在し、右解除条件が成就したものであるか。)について判断する。
1 被告は、昭和四八年九月二八日にその名称を設立当時の「共栄旅客自動車協同組合」から「クラウン無線事業協同組合」に変更したものであるが、その名称変更の経緯及びその後の経過についてみるに、前記一1認定の事実によれば、(1)原告ら(原告(東住吉区)及びニュークラウンタクシー)は、昭和四八年当時、関協に加入しており、関協が免許を受けている無線基地局を利用してタクシー車両の無線配車を行っていたが、関協に加入している各社の営業姿勢に疑問を感じた石田は、関協から脱退した上で独自に無線局免許を取得して独自の無線配車業務を行おうと考え、被告の他の組合員であった毎日交通及び高槻交通にその旨打診したところ、毎日交通は営業政策上関協を脱退できない事情があり、引き続き関協の無線を使用するとのことであり、高槻交通は同社固有のタクシー無線を備えていたことから、関協の脱退につき賛同が得られなかったため、原告らは、被告並びに毎日交通及び高槻交通との間において、被告の名義で無線局免許を取得するが、右無線は原告ら固有の無線として、原告らのみが管理、使用し、他の被告組合員である毎日交通及び高槻交通はこれを一切使用しないことを合意するとともに、そのことを対外的に明らかにするため、被告の名称に原告らの営業表示である「クラウン」の名称を取り入れて、「共栄旅客自動車協同組合」から「クラウン無線事業協同組合」に変更することとし、このことについて毎日交通及び高槻交通の同意を得た、(2)そして、原告らは関協から脱退し(毎日交通及び高槻交通は、関協に残留した。)、被告は、昭和四八年九月二人日、その名称を「クラウン無線事業協同組合」に変更し(同年一〇月二三日変更登記)、同年一〇月五日、本件無線局免許を取得した、(3)それ以降、原告(東住吉区)は一三五台の車両に、ニュークラウンタクシーは一二九台の車両にそれぞれ本件無線局免許に基づく陸上移動局を開設して無線配車を行い、車両の屋上につける表示灯に王冠マークを表示するようになったが、毎日交通及び高槻交通は、前記合意に従い、本件無線を利用することはなく、また、本件無線は原告(東住吉区)の本社所在地内に基地局が設置され、オペレーター等の人件費、発信器を集中管理する株式会社大阪無線サービスの株式の取得費用等、本件無線に関する費用は、すべて原告らのみがその全額を負担していたのであり、昭和五一年五月一九日に新たに被告に加入して組合員となった毎日タクシーも、本件無線を全く利用しなかった、(4)毎日両社及び高槻交通が被告を脱退した後、毎日両社が株式譲渡契約及び被告の持分譲渡契約は無効であると主張するようになり、昭和六〇年四月、ニュークラウンタクシーに対し株券返還請求訴訟を提起し(平成四年ニュークラウンタクシーの勝訴確定)、更に、平成元年一一月、被告理事会を招集して梅田交通株式会社を中心とする梅田交通グループ五社を被告に加入させようとし、また同年一二月、被告に対し、毎日両社は依然として被告の組合員であると主張して毎日両社のタクシーにも本件無線による配車をせよとの仮処分を申し立てたことから、石田と旧知の笹井がオーナーである三菱五社が被告に加入し、笹井が被告の代表理事に就任したが、その際も、石田と笹井との間では、三菱五社はあくまでも石田ないし原告らを支援するために被告に加入するものであり、本件無線は原告らが実質的な権利を持ち、専用使用するもので、三菱五社は本件無線について組合員として実質的な権利を行使しないとの合意があり、現に、三菱五社は、昭和六三年に関協を脱退して三菱ハイタク事業協同組合を設立し、同年六月一日付で同組合の取得した無線局免許を使用して三菱五社保有のタクシー六二二台に対する無線配車業務を行っていたため、本件無線を管理、使用することがなかった(それ故、毎日両社が申し立てた右仮処分事件において被告〔代表理事笹井〕が提出した平成二年一月一七日付準備書面においても、被告が取得した本件無線局免許は、当時組合員であった原告ら及び毎日交通、高槻交通全員の同意により、もっぱら原告らに対する無線配車を行うために取得されたものであり、また、本件無線局免許に基づく無線配車事業の事業主体は、実質的には当初から一貫して被告ではなく原告らである旨主張した)、というのである。
2 右のとおり、被告が昭和四八年九月二八日にその名称を設立当時の「共栄旅客自動車協同組合」から「クラウン無線事業協同組合」に変更したのは、原告ら(原告(東住吉区)及びニュークラウンタクシー)が、被告並びに毎日交通及び高槻交通との間において、被告の名義で無線局免許を取得するが、右無線は原告ら固有の無線として、原告らのみが管理、使用し、他の被告組合員である毎日交通及び高槻交通はこれを一切使用しないことを合意するとともに、そのことを対外的に明らかにするため、被告の名称に原告らの営業表示である「クラウン」の名称を取り入れることとし、このことについて毎日交通及び高槻交通の同意を得たものであるから、原告らは、被告の名称変更に際し、被告に対し原告らの営業表示である「クラウン」の名称を使用することを許諾したものというべきである。
被告は、被告の名称については原告らは何らの法的権利を有していないのであり、原告らの使用許諾に基づいて名称中に「クラウン」の名称を使用することになったものではないと主張するが、昭和四八年当時、原告(東住吉区)は設立から約九年、ニュークラウンタクシーは商号変更から約七年を経過して、タクシーの保有台数もそれぞれ一三五台、一二九台に達していたのであって、「クラウン」の名称を含む本件表示は、前記二説示のとおり未だ原告らの営業表示として不正競争防止法二条一項一号のいわゆる周知性を取得していたとまではいえないものの、一定の信用が付着していたことは明らかであり、右のような被告の名称変更の理由は、被告名義で取得する本件無線を原告らのみが管理、使用することを対外的に明らかにすること以外には考えられないのであるから、原告らが「クラウン」の名称について法的権利を有しないことは、何ら右認定を妨げるものではない。
そして、右のような被告の名称変更の経緯、理由に照らすと、原告らが被告に「クラウン」の名称を使用することを許諾したのは、原告らが、被告名義で取得された本件無線は原告ら固有の無線として、原告らのみが管理、使用し、他の組合員はこれを使用しないということが前提となっていたのであるから、原告らと被告との間においては、少なくとも原告らが被告を脱退するなどして本件無線を使用しなくなったときは、原告らが被告に対し「クラウン」の名称の使用を許諾した前提となるべき関係が消滅したものとして、右許諾の効力を消滅させ、被告は以後「クラウン」の名称を使用しないものとする合意が、黙示的に成立していたものと解するのが相当というべきである。すなわち、原告らの被告に対する「クラウン」の名称の使用許諾には、原告らが被告を脱退するなどして本件無線を使用しなくなることを解除条件とし、右解除条件が成就したときは被告は以後「クラウン」の名称を使用しないとの合意が伴っていたものと解される。原告らは、右使用許諾には、原告らと被告の間に支配・従属の関係、親子会社的な関係、タクシー事業を補完する関係、原告らのグループの一員として行動すべき関係などが原告らの責めに帰すべからざる事由により消滅したときには被告はもはや「クラウン」の名称を使用することができないという黙示的な合意、すなわち右のような関係が消滅することを解除条件とするという付款があったと主張するところ、支配・従属の関係などの語は必ずしも適切でない感がないではないが、右説示した趣旨をいうものとして採用することができる。
しかして、前記一1認定の事実によれば、(1)平成三年のタクシー運賃値上げを巡って原告らと三菱五社どの間に軋轢が生じ、その過程で出ていたニュークラウンタクシーの営業権の三菱五社への譲渡の話を平成四年一月に原告(東住吉区)が断ったことから、原告らないし石田と三菱五社ないし笹井との関係が悪化していたところ、三菱五社は、前記のような約束に反して、自らも権利行使ができると主張し、三菱五社のタクシー六〇台に本件無線を基地局とした陸上移動局を開設しようとしたので、原告らは、大阪地方裁判所に対し、本件無線局免許の変更・廃止に関する行為を行ってはならないとの仮処分を申し立て、更に、三菱五社〇オーナー笹井がその代表理事である被告は、原告らの強い反対を押し切って、平成四年二月一三日、三月一五日、九月二八日、一一月二八日の四回にわたって、被告の事務所所在地を大阪市から守口市(三菱五社の本社)に、名称を「クラウン無線事業協同組合」から「大阪ハイタク事業協同組合」に変更する旨の決議を繰り返し、同年一二月三日に近畿運輸局長に対し定款変更の認可を申請し、平成五年一月一四日にその認可を得たにもかかわらず、事務所所在地を守口市に、名称を「大阪ハイタク事業協同組合」に変更する旨の登記手続をせず、放置し、かえって、同年四月一七日、通常総会において名称を元の「クラウン無線事業協同組合」に変更する旨の定款変更決議をし、同月二四日近畿運輸局長に対し、その旨の定款変更の認可を申請した(右認可申請に対する認可は未だなされていない)、(2)その間、原告らは、平成四年四月一〇日、大阪地方裁判所に対し、被告の右同年三月一五日の総会における事務所所在地及び名称変更の定款変更決議の不存在確認等の訴訟を提起し、また、同年一〇月二六日付内容証明郵便により、被告に対し脱退する旨通告し、平成五年三月三一日付で脱退の効力が生じた、(3)原告らは、一方、平成五年一月一八日、「クラウンタクシーグループ無線共同配車組合」を結成し(同年五月一八日に名称を「クラウン無線配車組合」に変更)、同組合は、同年二月二二日、呼出名称を「クラウン」とする無線基地局及び陸上移動局の免許を取得し、タクシー無線事業を開始した、というのである。
したがって、原告らは、新たに結成したクラウン無線配車組合の取得した無線免許に基づく無線局を使用して自社タクシーの無線配車を行っており、本件無線は被告を脱退したことにより全く使用しなくなったものであり、その脱退の経緯に徴すれば、原告らの脱退について原告らの責めに帰すべき事由があるともいえないから、前記の原告らの被告に対する「クラウン」の名称の使用許諾に伴っていた解除条件が成就したといわなければならない。すなわち、原告らの被告に対する「クラウン」の名称の使用許諾の効力が解除条件の成就により失われたものであり、被告は以後「クラウン」の名称の使用をやめなければならない義務を負うというべきである。
3 そうすると、原告らは、前記使用許諾契約の終了に基づき、被告に対し、「クラウン」の名称を使用しないよう求めることができるというべきである。被告は、被告の保有する本件無線を使用していた者と原告らとの連続性はないと主張するところ、その趣旨は必ずしも明確でないが平昭和四八年九月二八日に被告に対し「クラウン」の名称の使用を解除条件付で許諾したのは、原告(東住吉区)及びニュークラウンタクシーであるところ、原告(東住吉区)は、平成五年二月一二日に大阪クラウンタクシーにタクシー事業を譲渡したものの、現在まで一貫してその法人格に変更はなく、ニュークラウンタクシーは、同日に堺ニュークラウンタクシーにタクシー事業を譲渡し、同年五月二五日に商号を「石田興産株式会社」に変更し、平成六年一一月二一日、大阪クラウンタクシーから商号変更した「クラウンタクシー株式会社」を吸収合併すると同時に商号を「クラウンタクシー株式会社」に変更した(これが原告(旭区)である。)ものの、法人格に変更はないから、原告(東住吉区)及び原告(旭区)は、いずれも、被告に対する前記「クラウン」の名称の使用許諾契約の終了に基づき、「クラウン」の名称を使用しないよう求めることのできる地位にあることが明らかである。
したがって、被告に対し、被告の名称中に「クラウン」の名称を使用しないこと、タクシー無線事業について「クラウン」の名称を使用しないことを求め、昭和四八年一〇月二三日大阪法務局受付の法人登記中「クラウン無線事業協同組合」なる名称の抹消登記手続を求める原告らの請求は理由があるというべきである(なお、被告が、少なくとも無線事業を行っていることは弁論の全趣旨により明らかであるが、本件全証拠によるも、タクシー事業やタクシーチケット業務を行っているとは認められず、また、「クラウン」の名称以外に「CROWN」の名称及び王冠マークを使用していると認めるに足りる証拠はない。)。
なお、被告は、原告らの不正競争防止法二条一項一号、四条に基づく請求に関して、原告らは本件表示の使用について何らの法的権利を有しておらず、排他的権利を有しないと主張し、原告らが本件表示を使用するについて「クラウン」等の名称や標章について多くの権利を有しているトヨタ自動車株式会社の許諾を得ていないことを指摘するが、前記一1(一)のとおり原告(東住吉区)は、本件表示を使用するについてトヨタ自動車株式会社の関連会社と考えられる大阪トヨペット株式会社の口頭による許諾を受けている(同社から、タクシー営業権の買収資金の一部の融資を受け、タクシー車両に「クラ」と「ウン」の間に王冠マークを挟んだ表示をするための塗装用金型まで贈られている。これに反する乙第四六号証は採用することができない。)のであるから、本件表示の使用について原告らがトヨタ自動車株式会社の許諾を受けていないからといって、被告に対し右契約終了に基づく使用差止めの請求ができなくなるとする根拠は存しない。被告は、被告の名称は定款記載事項であり、定款の変更は、総会の決議事項であり、かつ監督行政庁の認可を受けなくてはならず、被告の代表理事が単独ではできないものであるから、請求の趣旨第一、第二項の請求は被告に処分権のないことを求めるものであると主張するが、独自の見解であり、採用することができない。
四 争点三(被告の行為は不正競争防止法二条一項一号所定の不正競争に該当し、あるいは被告の一連の行為、本訴における応訴、反訴の提起は不法行為を構成するか否か、被告が原告らに対して賠償すべき損害の額いかん。)について
1 本件表示が未だ周知性を取得しているとは認められないことは前記二説示のとおりであるから、原告らは、被告の行為が不正競争行為に該当することを理由としては損害賠償を求めることができない。
しかし、前記事実によれば、被告は、原告らの解除条件付使用許諾により「クラウン」の名称の使用を許諾されたものであり、その解除条件の成就により使用許諾契約の終了を理由に「クラウン」の名称の使用をやめなければならない義務を負っているにもかかわらず、その義務の履行をせず、しかも原告らが被告の組合員であった間は、原告らの強い反対を押し切って、平成四年二月一三日、三月一五日、九月二八日、一一月二八日の四回にわたって事務所所在地を大阪市から守口市に、名称を「クラウン無線事業協同組合」から「大阪ハイタク事業協同組合」に変更する旨の決議を繰り返し、同年一二月三日に近畿運輸局長に対し定款変更の認可を申請し、平成五年一月一四日にその認可を得たにもかかわらず、原告らが、同月一八日、「クラウンタクシーグループ無線共同配車組合」を結成し、同組合が、同年二月二二日、呼出名称を「クラウン」とする無線基地局及び陸上移動局の免許を取得してタクシー無線事業を開始し、原告らが同年三月三一日付をもって被告を脱退するや、事務所所所在地を守口市に、名称を「大阪ハイタク事業協同組合」に変更する旨の登記手続をせず、放置したばかりか、かえって、同年四月一七日、通常総会において名称を元の「クラウン無線事業協同組合」に変更する旨の定款変更決議をし、同月二四日近畿運輸局長に対し、その旨の定款変更の認可を申請したのであり、更に原告の本訴提起をもって不法行為に該当すると主張して損害賠償請求の反訴まで提起しているのであって、かかる被告の行為は、単に契約終了に基づく義務の不履行というにとどまらず、不法行為と評価することのできるものである(被告の立場に立ったとしても、原告の本訴請求が全く事実的、法律的根拠を欠くものとして不法行為を構成するとまではいえないことは、通常人であれば容易に知りえたにもかかわらず、被告は反訴を提起したものであり、原告らに対する不法行為を構成する。)。
被告は、被告がいったん「大阪ハイタク事業協同組合」に変更した名称を元に戻したのは、原告らが訴訟を提起してまで変更に反対したこと、本件無線局免許の名称の変更の必要性に気づいたこと、被告の財産確認のためであるとか、原告らは、訴訟を提起してまで被告の名称変更に反対したのであるから、被告の名称を変更しないことは、原告らの強い希望であったと主張し、被告代表者は同旨を供述するが、原告らが平成四年三月一五日の総会における決議の不存在確認等を求める訴えを提起したのは、原告らがまだ被告の組合員であった同年四月一〇日のことであり、右訴えも平成五年一月一二日に取り下げているのであるから、被告が被告の名称を変更しないことは原告らの強い希望であったと主張して「クラウン」の名称の使用をやめないことは、右訴えの提起に籍口したものであって、到底正当なものということはできず、右主張のその他の理由も、到底被告が「クラウン」の名称の使用をやめないことの正当な理由ということはできない。
2 原告ら代表者の供述及び弁論の全趣旨によれば、原告らは共同して本訴の提起・追行、反訴に対する応訴を原告ら訴訟代理人に委任し、弁護士費用として三〇〇万円を支払うことを約したことが認められるところ、そのうち、原告らそれぞれについて四〇万円は右不法行為と相当因果関係にある損害と認めるのが相当である。
3 したがって、被告に対し、不法行為を理由に損害賠償を求める請求は、原告らそれぞれにつき四〇万円の限度で理由があり、その余は理由がないというべきである。
五 争点四(原告らの被告に対する本訴請求にかかる訴えの提起は、不法行為を構成するか。)について
被告は、原告らの本訴提起をもって被告に対する不法行為を構成する旨主張するが、本訴の提起が不法行為を構成しないことは、以上の説示から明らかである。
したがって、被告の原告らに対する反訴請求が理由のないことは明らかである。
第六 結論
よって、原告らの被告に対する本訴請求は、使用許諾契約の終了に基づき、被告の名称中に「クラウン」の名称を使用しないこと、タクシー無線事業について「クラウン」の名称を使用しないこと、昭和四八年一〇月二三日大阪法務局受付の法人登記中「クラウン無線事業協同組合」なる名称の抹消登記手続を求める原告らの予備的請求を認容し、損害賠償請求については原告らそれぞれについて四〇万円(及び遅延損害金)の支払を求める限度で認容し、その余(不正競争防止法二条一項一号、三条に基づく主位的請求、右認容額を超える損害賠償請求)を棄却することとし、反訴請求を棄却することとする。
(裁判長裁判官 水野武 裁判官 田中俊次 裁判官 小出啓子)
標章目録
<省略>
無線局免許目録
一、(1) 無線局の種別 基地局
(2) 免許の番号 近基第九四八一号
(3) 免許の年月日 平成三年六月一日
(4) 無線設備の設置場所又は移動範囲
(通信所)大阪市東住吉区湯里五丁目一三番
(本項目のその余の記載事項は省略)
(5) 通信事項 一般乗用旅客自動車の配車需要の連絡並びに指導監督に関する事項
二、(1) 無線局の種別 陸上移動局
(2) 免許の番号 近移第五二九六九四ないし五二九九五七号
(3) 免許の年月日 平成三年六月一日
(4) 無線設備の常置場所及び移動範囲
大阪市東住吉区湯里五-一三
当該事業者の事業区域内
(5) 通信事項 一般乗用旅客自動車の配車需要の連絡に関する事項
三、(1) 無線局の種別 陸上移動局
(2) 免許の番号 近移第五二九九五八ないし五二九九五九号
(3) 免許の年月日 平成三年六月一日
(4) 無線設備の常置場所及び移動範囲
大阪市東住吉区湯里五-一三
当該事業者の事業区域内
(5) 通信事項 一般乗用旅客自動車の指導監督に関する事項
(以上)
得意先住所録
(省略)